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和歌山・不思議系

羊たちの沈黙

20/5/24 22:48
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さてさて、本日は何万本と観てきた作品の中で第三位にくるこちらを敢えて語らせて欲しい。

アンソニー・ホプキンス様の出演時間は、全編で僅かに11分程だとか。
圧倒的な存在感が、それを全く感じさせない。
レクター博士の第一候補はショーン・コネリーだったそうだが、このキャスティングで大正解だった。

直接的な描写を避け、時として背後から忍び寄り、あるいは真綿で締め付けられる様に持続する恐怖。

残酷な物語でありながら、その映像表現は極めて抑制されており、観る者の想像力に働きかける演出には格調の高ささえ感じられる。
故に、後味は意外な程悪くなく、折に触れて鑑賞出来る作品だ。

ボールペンやエレベーターの階数表示のクローズアップ、通りの向こうへと登場人物たちが去っていくあの長回しの場面など。
いずれも、忍び寄り持続する恐怖の真骨頂だと思う。

前半、クラリスが博士と対面する地下牢は、工場跡を利用したセットとのこと。
その古びた石積みの壁の前で背筋をピンと伸ばした博士の微笑が、たまらなく怖い!
後半、博士が「再始動」する場面では、バッハのゴルトベルグ変奏曲(最近まで演奏はグレン・グールドだと思い込んでいたが、実はジェリー・ジマーマンという方だそう)が流れる。

衆人環視の中、つかの間の静寂に身を置きながら、決行前の一時を楽しむかの様な博士の佇まい。
なんという見事なアンチ・ヒーロー振りだろうか。

かつて、アルフレッド・ヒッチコックは「観客には意味の目撃者になる権利がある」と語ったそう。
私はこれを「観客が、映画の中の登場人物よりも半歩先にストーリー展開を知る演出を心掛けるべきだ」と解釈したい。
最終盤の地下室の場面を筆頭に、そのヒッチコックの熱心なファンだというジョナサン・デミ監督のリスペクト振りが十二分に感じられた。
(c)gran-tv.jp