喫茶去(160)
春蘭(48)
秋田・人妻系

産みの父と育ての父

18/5/31 17:53
163 23
皆様こんばんは、春蘭です。

丁度30年前の今日、あたしは中学2年生でした。帰宅すると大人達の数人は早速座卓を囲んで何やら相談です。数人は台所で相談したり慌しく動いています。数人はあちこちに電話したりメモしたりしています。この家の人間である筈のあたしは、まるで知らない間に迷子になった子供の様に茫然と立ち尽くして、大人達の様子を眺めていました。手持ち無沙汰に溜め息をついて、庭に目をやったとき
あたしに出来ることはこれだ!
と弾かれたように動き出し、花がら摘みやら雑草取りやら、庭木の剪定やら芝生刈りやら、水遣りやら鉢の周りの掃除やらを日焼けも構わず、狂ったようにやり続けました。
その数日後の抜けるような青空の下、荒れ気味だった状態から見栄えがする程度まで改善出来た庭を横切って、我が家を離れる母の父の棺を送り出したのです。

大袈裟に褒めることも、また、叱ることもしない祖父でした。でも、祖父なりの溢れるほどの愛情を浴びるようにして育ちました。お陰で父がいないことを寂しく思ったり、父を知らない自分を憐れんだりしたことはありません。
何かを感じていたのか…小学校6年生のときには、あたしが言った「良い色だった」の一言で、自分は見ることもせず振り袖一式を買ってくれました。お陰で中学1年生のときにあった親戚の披露宴に着て出席し、最初で最後の振り袖姿を見せられました。
あたしの後ろに覆い被さるようにして立ち、手を添えて習字の稽古をつけてくれました。
自然が好きなあたしにと、『NHKスペシャル地球大紀行』のガイドブックやら生息地別動物図鑑的なものやら、エゾリスの剥製まで買ってくれました。
本当は建築の仕事に就きたかったそうで、あたしが飼っていたインコのために箱巣(鳥に卵を産ませるときに使う、箱状の鳥籠)をサクッと作ってくれました。
あたしは、よく高熱を出す子供でした。その度に身長180センチ程あった祖父にお姫様抱っこされて、近所の病院に運ばれました。自分が仕事で留守の間に祖母や母が慌てないようにと、冷凍庫にもあるのに近所のスーパーの魚屋さんから氷を買って来てくれました。勤めていた小学校の用務員さんに頼んで、解熱作用があるという野草を採って来てもらい搾り汁を飲ませてくれました。

お祖父ちゃんとのこと、全部全部覚えてるよ
そっちに行ったら、いっぱい話聞いてね
(c)gran-tv.jp