母方の祖父が死んで、10年になる。
92歳の、大往生。
ひとつ年上の祖母もその翌年、亡くなった。
仲良く長い間、山奥の村落で暮らしていたふたり。
戦中、満州で過ごしたという祖父は、同じ土地で看護師として働いていた祖母と知り合い結婚、生まれ故郷に一緒に戻り、生活を始めたと聞いた。
様々な職を経て農業に落ち着いたが終生、趣味人で通したふしもある。
その趣味人の祖父が若い頃のひととき、
熱中したのがテニス。
子供の頃に、写真を見せてもらった事を今でも覚えている。
はつらつとした表情で、ラケットを振る祖父。
仲間と一緒に笑顔で、テニスコートに居並ぶ祖父。
セピア色の写真なのに、なぜか極彩色に見えた不思議な思い出。
その、祖父の家で定期購読していた農業雑誌。
訪れるたびに、読むのを楽しみにしていた掲載連載小説。
宮本輝の、「彗星物語」。
宮本輝、というと当時「ネスカフェ・ゴールドブレンド」のテレビCMで「違いのわかる男」として出演している印象が強くて。
「男前さん」と評判だった(らしい)祖父と、宮本輝とが妙に重なりそれ以降、宮本作品を愛好し、次々に読破したのはまた、別の話。
時は流れ、
祖父の葬儀の時にまだ、園児だった長男も来週で早や、
14歳。
某文化部を退部して先週から、テニス部へと転部。
そして、どういうわけだか入部2日目にして、他校との練習試合に選手として出場。
いやいやいや、大丈夫なのか?
ルールわかってるの?
いや、そもそもタマ打ててるのか………?
急展開に驚く母の気掛かりをよそに毎日、はつらつと楽しそうな長男。
まあ、いいか。
おじいちゃんのDNAのおかげ……?
という事に今は、しておこう。
新学期からは図書委員になりたいと話す、読書づいてきた長男にもう少し、大きくなったらこれを薦めてみようかな。
新設大学の、新設テニス部をテーマに、
青春の光芒を描いた宮本輝の、名作を。
では、また。