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和歌山・不思議系

ビューティフル・マインド

20/4/28 00:20
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1994年に“ゲーム理論”でノーベル経済学賞を受賞し、2015年に逝去した天才数学者ジョン・ナッシュが、統合失調症(昔の精神分裂症)を妻アリシアと乗り越えてきた波瀾の半生を、プリンストン大学院から授賞式まで描いた2001公開の秀作。

アカデミー賞でも作品、監督、助演女優、脚本の4部門受賞と、人生の本質を突いた深いテーマ性やラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリーの主演二人の圧倒的な演技力で出色の作品で、何度観ても独特な精神世界に引き込まれる逸品だ。

ストーリーの大筋は実話に基づいているが、精神障害の発症時期を前倒しにしたり、同性愛経験や妻以外の女性と子供を設けた話、妻と一度離婚した話は割愛されたとの事で、実際は更に起伏に富んだ人生だったとは驚きだ。

彼の幻聴や幻覚の映像表現が脚本の最大の特色だ。天才だが社交性が皆無なナッシュは自らの尊厳を護る支援者を気付かぬ内に作り上げるのだが、そのプロットに観客が気付いたとき、本作の真の物語が始まる。統合失調症の重苦しさをこれほど見事に演出した作品は他に無いだろう。

そして同時に彼はアダム・スミス著の資本論ににある「神の手」を補完する支配理論の研究に没頭する。社会を司る真理を数学的アプローチで紐解くことで、自らの存在価値を探求する旅に出るのだが、そこに現れる伴侶が聡明なアリシアだ。

ストレートな表現しか出来ない彼の全てを全身で受け止め、それが次第に友人や大学、生徒達をも理解者に変えて彼を幻覚世界の暗闇から救いだす。ジェニファー・コネリーは健気なだけでなく運命と闘う姿勢が本当に美しく、昔の美少女役からは想像できない素晴らしい女優になった。

さて、本作の圧巻はやはりラッセル・クロウだ。恐ろしい迄の迫真の演技には驚愕する。姿勢や身振り、視線や話し方まで身体全体を使って不安定なナッシュを表現したのは流石。

本作の主題は運命を受け入れ、勇気を持って前に歩む高潔さ、そして人を慈しむ与える愛の深さだ。人は誰でも完璧ではないが、人の誠実さや潜在力を信じて支え合う事だけが運命の波に押し流されない礎なのだと教えてくれる。
何が普通で何が異常か等の基準は他の誰でもない、自分が決めれば良いし、それは苦痛を苦痛で無くする。こんな精神性を教わる映画は本当に稀なので、是非とも一度観て欲しいと思う。
(c)gran-tv.jp