夕方から降り出した雨。
雨のたびに主人は、新しく傘を買いなさいと笑い、あたしは、この傘がいいのと返す。
もう何度目かわからなくなった会話。
あたしのお気に入りの雨傘は、骨が一本折れている。
折れている部分には、テープを巻いただけの不器用な補修。
母の臨終が告げられた日、雨が視界を奪うほど降りしきり、雨が嫌いになった。
でも、こうして気に入って使っているこの母の雨傘をさせるのは、雨が降る日だけ。
信号待ち、あたしは人差し指でテープの補修部分をなぞり、母を想う。
母は確かに、生きていた。
証をなぞり、安心する。