【草薙電脳艶戯倶楽部】(629)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【re-union】

23/1/25 12:30
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歳を重ねる毎に避けようもなく、
身辺に故人が増えていく。
その事が実体験をもって自らに切実に迫るのを感じる、今日近頃。

生まれてからこの方、構築してきた「ワタシ」を何ひとつ、冥土に持っていくことはできない。
「有名」「聡明」「綺麗」「裕福」。
それらはすべて「だった」という過去形となり、そしてハイフンの最後には没年が例外なく付される。
死後までたたえられる美や名声を嬉しく受け止めた、そんな自身の魂の実体験を語る者はいない。

「孤独は、人のふるさとだ。恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない。」
坂口安吾が著作「恋愛論」に書いている言葉に、今更にしみじみとうなづく。
恋=乞い願う、愛=与う、とするならば、人生の花たる「恋愛」とは何も、男女の関係に限った話ではない。
万物に引力があるとすれば、リンゴと地球が引き合うのと同じ理屈で、予想外の対象同士が、思いがけず、引き合うこともある。

ヒトのココロの恋愛的相互引力は、唯一絶対を求めれば時に、残念な結果を生むかも知れない。
引力のベクトルは一方向にあらず、ひとつの地球が、たくさんのリンゴと引き合うこともザラだ。
そして、リンゴにしても地球だけではなく、手に取ってくれた誰かの手や、ナイフや、かみ砕く歯や舌をその、芳香とともに引き寄せる。

昨日、ふと思い立ちオモテのカオのSNSで「今年から少しずつ、飲み会やひとり旅の計画を増やしていこうと思います。」と書いた。
我が家の男衆が私不在でも問題なく3人で過ごせるようになったためではあるが、その根底にはやはり、「意識のある、想いのあるうちに親しい人々に会っておきたい」という、自らの終末を多少は、意識しての気持ちもあったかも知れない。

「唯一絶対」にとらわれる時代は、とうに過ぎた。
人生の夕刻を思い描き始めた今、たくさんの「唯一無二」に会いにいき、冥途の土産にはできない、存命限定の旧交を笑顔とともに、あたためたい。

何を、気の早い…
と、笑われそうですが。
そう思うのです。

では、また。
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