【草薙電脳艶戯倶楽部】(629)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【color-s】

22/5/25 00:05
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「気がついたら同じ面ばかりプレイ
そしていつも同じ場所で死ぬ
諦めず消える足場に挑戦するけれど
すぐに落ちるよ
何回やっても 何回やっても
エアーマンが倒せないよ」

昭和ファミコン世代の方なら、もしかしてご存知かも?とも思う。
ゲーム「ロックマン2」に登場する屈指の難敵「エアーマン」に、幾度倒されても不撓不屈に挑むプレイヤーの心情を歌った名曲『エアーマンが倒せない』。
私自身はエアーマンどころか、ロックマン自体プレイした事はない。ただ、この歌の心情は痛いほど、身に沁みて解る。

今日もダメだった。また、今日もダメだった。
今日は少し、進めた。ああでもまた後退してしまった…
現実世界だってゲームと同じ、生きている限りそんな、心の中の難敵との戦いの連続なのではなかろうか?

そんな諸々の戦いにまたぞろ、自閉的に疲労感を募らせていた折の、母からのLINE。
目に飛び込んできたのは、鮮やかな多彩色。
1週間前から入院している、96歳祖母が数日かけて完成させた、趣味の塗り絵。

「突然ですが、入院する事になりました。年も年ですから覚悟して下さい。」
そんな母からの物騒なLINEにすっかり動揺してしまったが。
フタを開けてみれば、祖母は自ら母に「息が苦しいので通院したい。」と話し、入院が決まった時も、にこやかな顔で看護師さんと会話しながら、堂々と居室に入っていったというのが真実。

下の世話をしようとした看護師さんが、オムツを付けていない事に驚いた。
良く食べ、良く眠っている。呼吸も安定してきた。
意識もはっきりしている。「ヒマだわ。」と看護師さんに愚痴る。

今まで大病も入院もせず、祖父が85歳で没してからはいよいよ元気で、自分自身の世話は徹底して、自分でしてきた女傑。
「覚悟しなきゃならない」のは、本人でも我々孫たちでもなくおそらく、母だったのだろう。
大きな礎を失う可能性はまだ、現実的なところ、皆無ではないのだから。

孫の中でいちばん、祖母似と言われる私。
神仏の決定はさておき、だから気が済むまではなけなしの苦笑で、試練に立ち向かおう。

何回も。何回でも。

「今日もダメだった。
でも、明日はあと一歩、
ほんの少しでも進めるだろうか?」


では、また。
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