【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【hug】

22/4/4 12:48
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2年ぶりの、単身外飲み。
とあるバーで知り合った見ず知らずの男性に帰路、別れ際に抱き締められた。
よもや、アラフィフを目前に控えた今頃になって、そんなドラマ、いや昭和歌謡みたいな出来事に遭遇するとは思いもしなかった。

家庭経営戦略上、配偶者とは意識的かつ定期的な肉体的交流を持つように心がけ続けているため、男性との接触はある種日常であり、特別な事ではない。
加えて接触を「努力」しなければならぬ程度に元来、直接接触に多少の抵抗感があるため常に、他人とは心身とも「間合い」をとる事にしている。
しかし思うに、この2年間の非接触生活でその「間合い」の意識がかなり、鈍化していたのかも知れない。
ともあれ「想定外の椿事」であったという点で今回、特筆に至った次第である。

一席隔てた椅子に座っていたその男性とは、マスターや他の方と会話する中で何となく一対一で話すかたちとなった。
ありがちだが「年相応に見えない」話や血液型の話に始まり、家族の話、哲学と物理とガンダムの話などで盛り上がったと記憶している。

マニアックな会話が嬉しくてつい長居をしたその帰り道、冒頭のワンシーンと相成った。
わりとギャグマンガ的に焦り、眼鏡男子でないから欲情も出来ず、困った挙句にたずねてみた。

「えーと。こういうの初めてですか…?」
まるで水商売みたいじゃないかと頭を抱えたくなるが、これぐらいしか思いつかなかったから仕方ない。
「初めてです。ごめんなさい。少しだけこのままいさせてください。」
「あ、はい。ではどうぞ。えーと、やっぱり男性は体温高いですね。あったかいです。」
「そうですか。それは、よかった。」

翌日、家族で出掛ける予定があったのでその旨を話すと、すぐに腕をほどいてくれた。そしてお互いに、連絡先も交換しなかった。

名も知らぬ彼からこの夜、有難くいただいたもの。
それは、「見た目如何に関わらず、女性として認識される事はいくつになってもあり得る」こと、そして何より、絶対的で直線的なベクトルしか持たない、刹那のありったけの熱情だったと思っている。

あなたも、私から何かを得ましたか?
もし得たならば、何よりの等価交換です。

心から、ありがとう。
お互い、元気でがんばりましょう。

では、また。
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