しっとりと濡れているのに、からくり人形を想わせる硬質なまなざし。
悟の瞳は「もとこ」のそして、「モトコ」のそれと同じ性質でありながらさらに、その奥には確固たる僕に対する、対峙の姿勢をあらわにしていた。
それは、そうだろう。
母子ふたりのはずの、京都旅行。
なのに、母の友人に、会う・・・・友人?
二次元とはいえ、お互いの粘膜を熱く濡らしながら、見る事も触れる事もできないままに求めあい、貪りあった数多の。秘め事。
そして未だお互い、確証には至らないが、若き日々の数々の、拙いながらも忘れ難き、心身の情交。
それらがあるがゆえの絶対的な後ろめたさ、そして、「キミのお母さんの『お友達』」という大人の態度を死守せねばならぬという気負い。
それらがないまぜとなり結局、3人で行った青蓮院も、その道中も正直僕は、うわの空で上滑り、それなのに態度と受け答えだけは模範解答を探ろうとしている、ただの鈍臭い「おじさん」であったと思う。
いや、もしかして僕のそんな野暮ったい態度が上手く作用して、悟に余計な想念を抱かせなければいい…
そんなふうにふと、狭量な期待をしてみたりもした。
だから夕刻、モトコが宿泊先の、親しい親族の家に悟を先に送っていくと言った時には内心、かなりの荷下ろし感を覚えていた。
悟とも年が近く、仲の良い従兄弟がいるという。
どうやら、日常的に音声双方向通信しながら、オンラインでゲームをしているらしい。
その従兄弟の話をする悟の表情からわかりやすく、警戒心が消えている事に僕はさらに、安堵を覚えたのではあった。
19時に再度、京都の嵐電・北野白梅町駅前で。
そう約束をして、我々はいったん、別れた。
そう、学生時代のあの日と同じく、特にネガティヴな理由も無く。