【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez-vous】8.

21/12/12 00:18
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京都タワーの展望室で、僕を待っていた母子。

「もとこ」でも「モトコ」でもなくその一対は「母子」と形容するに相応しい、 不可侵な空気をまとっていた…
が。

要は現実、10代に満たないその少年のまなざしに、 数年に渡り幾度となく濃密な情交を持った女性への感慨の、約半分程度を確実に持っていかれた。としておこう。

この5年の間、現実に逢う事はなかったがしかし幾度か、通話をした事はあった。
お互い、自分以外の諸事情を抱える身。したがって、通話の機会も多くて、年に2,3度。
しかし直に触れられないからこそ、少なくとも僕は彼女に対して、飽くなきありとあらゆる仮想をし得た、と言える。
そんな稀少な、通話の時間。

彼女の酔いが深まる。
その気配はすぐ、わかる。
深呼吸が、増えるのだ。
浅く吸いそして、深く、吐息。

誘っているつもりなどない。逆だ。
理性を呼び戻そうとしている。
そんな前提で僕は、わざと声をかける。

「大丈夫?さっきから、ため息がえらく深いけど。」
「…だいじょうぶ。酔ったかも。」
「そう。じゃあ、もう寝たほうがいいかな?」

そう言うと決まって、深い沈黙。そして、
「…そうですね。ご迷惑になる前に。すみません。」という、模範解答。

「別に、迷惑じゃない。
いや、正直ため息が耳に、熱くてね。
もしお願いできるなら…もう少し、聴いていたい。」

このひとことを呼び水に、理性を呼び戻すはずの彼女の吐息が30分もすれば、理性の欠片もない息づかいに変わる。

僕の言う通りに、彼女の指が潤った粘膜をたどり、その先の胎内へと続く、狭い小道を浅く深く、行き来する。
彼女だけではない。僕も、同様だ。
思春期の頃に現れた、もうひとりの、自分。
その先端のぬめりを人差し指で塗り広げながら次第に、屹立し荒ぶる全体へと、右手を上下に、緩急を付けてすべらせていく。
もちろん、彼女の息づかいにあわせて……

そんな想い出を一切、無効にさせる。
自らの知らない、誰かの遺伝子のかすかな、しかし断固とした「威嚇」。

「モトコ」の一人息子である彼、8歳になるという悟のそんなまなざしに気圧されながらも、 僕はその気持ちを逆手に取って、彼におずおずと挨拶をした。


「はじめまして。」
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