【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez-vous】7.

21/12/7 23:45
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「息子と一緒に、待ち合わせ場所に行こうと思っています。良いですか?」

そんなメールをモトコからもらった時に、残念な気持ちと好奇心が複雑に入り混じる、そんな感情に戸惑いそして、反射的にスマホの電源を落とした。
折り悪く、仕事でトラブルに見舞われてかなり、心身ともに急落傾向にあったせいもある。

モトコがいわゆる「キャリアウーマンを絵に描いたような女性」であり、夫とは上手くいっておらず、自らのキャリアアップに従って一人息子を連れて、夫とは半ば別居し、岡山に移住している事は知っていた。

モトコの魅力は、女傑でありながら随所に思いがけない、脆さがうかがえるところ。
そして「もとこ」の魅力は・・・こうして、別れから30年近くも経過しているのにいつまでも、僕の心に棲み続けるところ、だろう。

そんな「もとこ」の魅力に導かれるように、万難を排して僕は、ここまで来た。
妻子を欺くのは、たやすい事。
嘘を上手くつくポイントは、真実を適度に、織り交ぜる事。
職業柄、比較的出張の多い僕が、
「京都出張になったよ。嬉しいなぁ。学生時代以来だよ。」 などと少々はしゃいで、はしゃいだ挙句に酔いの手伝う寝具の中でどさくさに紛れて妻を抱き寄せては事に及び、寝物語に
「いつか必ず、一緒に行こう。京都はいいよ?」
などと、潤いの残る妻の粘膜を名残惜しそうに辿りながらうそぶけばそれで、家内安全である。

そう。こんなふうに我が家は、いや、我々夫婦は円満、というよりも円滑に「運営」されていたのだ。

ただひとつ、あの日、あのサイトで出逢った「モトコ」の存在だけが僕の、いわば完璧な「家内安全」を乱したわけだがしかし、その乱調が僕には時に亢進剤、時に安寧剤として、今までにない「遊び」の感覚を抱かせてくれてもいた。

「息子」という、第三者の存在。
それを、文章や写真ではなく、逃げおおせる事の出来ない現実を伴い、僕の前に提示するという提案。

しかし僕はあの時再び、スマホの電源をONにしそして、モトコに返事を書いた。

「いいよ。楽しみにしています。」と。
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