【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez-vous】6.

21/12/2 22:33
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久方ぶりの、京都駅。

京都劇場、大階段、ザ・キューブ…
昔なじみの施設の、予想外の変化のなさが逆に、新鮮に感じられる。
景観への配慮から、京都タワーなどの数少ない例外を除いて建物も相変わらず、低い。
高くて広い関東平野の空に慣れ親しんでしまうと、まるで箱庭のようだと改めて、思った。

そしてこれまた、昔のデパートのような古式ゆかしい外観を持つ、京都タワー。
大学受験の帰路、ここに店舗があったとある中華屋で、食事をした事を思い出す。
甘いものがさほど好きでもないのに、食後のデザートに小さな桃饅頭を注文した。脳が、疲れ切っていたのかも知れない。

あれだけたくさんの「お互いである証拠」をこの5年、小出しにしつつも我々は依然、「もとこ」であり「はる」であった頃の話を一切、持ち出してはいなかった。
モトコから、好きだという外国のラブロマンス映画の話をされた時正直、同じ映画が好きだと語った「もとこ」に重なり、不思議なためらいを感じた。

人は結局、根の部分では何も変わらないのかも知れない。
日進月歩の更新を重ねる若い頃とは違い、残念ながら昔話にばかり、やたら詳しくなった。
懐かしいUNICORNの歌詞がよぎる。
奥田民生はすごいな。
おそらく20~30代前半ですでに、我々がこの歳でしみじみ思う事をさらりと、歌いあげてしまうのだから…。

そこだけ妙なだだっ広さを感じる駅前ロータリーを渡り、僕は、京都タワーに向かった。
約束までにはまだかなり時間があったが、一刻も早く、展望台に到着してしまいたかった。

「ハルに、会いたいです。
会って、これからの事を考えたい…」

モトコの文面が現実を確かに宿しながら、
僕に刻一刻と、決断を迫る。

豊橋で飲んだ可もなく不可もない缶ビールは、
すでに雲散霧消していた。
だから僕は、当初の予定通り完全なシラフで、
「もとこ」の可能性が限りなく濃厚な「モトコ」とこれから、相見えることとなるのである。
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