【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez-vous】4.

21/11/26 23:06
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「素敵な名前の由来だね。」
かつてそう、彼女に全肯定された僕の名前。

両親がまだ交際中の時に、ふたりで眺めた春の海が今までになく、美しく見えた日があったそうで。
既にその時、母の子宮で僕は船を漕いでいて、そしてその時の海の美しさに因んで「波瑠比古」という、えらく大仰な名前を出生の後に、賜るハメになった。

最初は「波瑠比古さん」と漢字が目に浮かぶ硬さの彼女の呼びかけが「はるさん」、そして「はる」に短縮されるまで凡そ、3ヶ月程を要した。

開ければいつも山積みの、女性からのメール。
システム上、アクティブにブログを書いているとそうなる事は、すぐにわかった。
写真や文面を見ればすぐに、その女性の人となりもわかる。つまりは残念ながら「モテる」などと勘違いするには、僕は年を取り過ぎていたと言えよう。

しかし、それでも僕は気に入った女性複数名と、それなりにやり取りをした。
魅力的な容姿の上に、会話上手な女性がたくさんいる事は事実だったし、甘い誘惑をすべて無視してブログ執筆だけに興じる事が出来るほど、僕は潔癖でも一途でもない。

大勢の男性ブロガーの中の、単なるひとり。
そんな「ハル」。

そして登録後。
しばらくして、女性新着ブログ一覧で偶然見つけた「モトコ」の名前。

まるで条件反射のように、彼女のプロフ画をタップした。
瞳が、特徴的だと思った。「もとこ」のあの、濡れているのに硬質な瞳とそれが、重なる。

プロフを、そして彼女のブログをむさぼるように読んだ。
住みは「大阪」とあったが、ブログを追うと途中「仕事の関係で息子を連れて、岡山に移住した」とある。
ちなみに夫君はまだ、大阪にいるとの事。

岡山・・・また、「もとこ」の事が頭をかすめた。きびだんご。五味太郎画伯の、パッケージ。

尋ねたい事をひとつも、言葉に出来ないまま、気付くと「ハル」と「モトコ」の文通は早や、5年目の晩秋を迎えようとしていたのである。
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