【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez-vous】3.

21/11/24 23:59
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どうして当時、竜安寺の境内は拝観時間外にも立ち入る事ができたのだろうか。

2浪の末に大学に合格し、竜安寺付近のアパートに住んでいた僕が偶然、その事を知ったのは新入生の頃で、やはり似たようなコンパの帰り道。

いくら打ち解けたとはいえ、初対面の男に誘われて、警戒心の欠片もなさげについてきた彼女。
その時の僕にはまだ、彼女に対する性的欲望めいたものはなかった。と記憶している。
「ただただ、楽しく満たされた時間をまだ、終わりにしたくない。」そんな一心で大胆不敵にも、誘いを試みたのだ。

大門の脇の、小さな木戸を開けて中に入った。
境内は真の闇ではなく、明度を落とした常夜灯がちらほらと灯っていた。
僕の後を、彼女は事も無げについてきた。
「怖くない?」などと声をかけ、手を差し伸べるような気の利いた真似など思いも及ばずただ、僕は目的地点を目指した。

背の高い植栽のない、平地よりもほんの少し小高い場所。
満月になりかけの月の光が明るく、そして、優しい。

「きれいですね。月。
夢みたいな場所ですね。
……ありがとう。」

頻度を増す会話。気持ちの探り合い。
告白。交際開始。
ついつい惑溺しがちになる、重なる唇と身体の回数。
大学生にありがちな、ありふれた男女交際はそれから約1年と少し、僕の就職活動と卒業にまつわる様々がメインになるまで続いた。

不和の末の、別離でもなかった。
我々のあいだにはあってもごく時折の冷戦しかなく、彼女の年齢にそぐわぬ、感情への割り切りと現状適応力は時に僕を感心させ、また時に辟易させた。

月に裏側があるように、彼女の強さや冷静さとは裏腹の、心細さや寂しさを想像する事を当時、僕はどこまでできていたのか。

そんな事は今となってはもう、わからない。
わかるのはただ今だに「もとこ」という存在、その瞳の光が、僕の心をとらえて離していなかった事実をその数十年後、意外な場所で思い知らされる事になったというこの、現実のみである。

きっかけは、昼休みのほんの好奇心だった。
よくある出会い系PR。いつもなら×をタップするその指がなぜか、サイトへの入り口を押した。

そして昼休みが終わる頃には、僕はハンドルネーム「ハル」名義で、そのサイトに男性会員として、在籍する事となったのだった。
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