【草薙電脳艶戯倶楽部】(630)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

【rendez‐vous】1.

21/11/22 11:28
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「よろしければ、右側をご覧ください。
本日は、富士山がたいへんきれいに見えております」

年に何度かのお馴染みであった、そんな車内アナウンスをもうかれこれ、何年間聴いていなかっただろう。
懐かしさと妙な照れくささを覚えながら、どんどん後方へと流れていく車外の風景の中で、その優美な姿を眺めた。

子供の頃から、新幹線が好きだった。
単身赴任の多かった父に会いにいくために、母と姉と3人で乗った0系。
中部の地方都市で育った自分にはすべてが新鮮で、まるで関東全域がディズニーランドと感じられるような、誇大化したワクワク感があった。

自分を否応無い速度で運び去ってくれる0系はさしずめ、リゾートラインといったところ。
息子たちと妻と4人で訪れた初ディズニーの時に、本物のリゾートラインの車中でそんな事を思い出しては、微笑んだ。いずれにしても、懐かしい話。

ランド内はたくさんの、年若いカップルであふれていた。手を繋ぎ、ぎこちなく距離を縮めるふたり。きけば、懐かしい関西弁だ。
平日に・・・大学生だろうか?

ふと振り返る、「もとこ」とのデート。
奮発してディズニーはおろか、近場といえるUSJさえついに、我々は行く事はなかった。

そして、それで満足だった。
出会い、そして別離までの1年間は完璧に完結した物語のようで、それゆえにいつまでも忘れがたく、「もとこ」との日々の記憶はすでに、人生を形成する重要な一部分として常に僕を、当時の想いへと引き戻す。

これは、20代の僕と「もとこ」、
そして50歳となった僕と「モトコ」とのあいだに起きた様々を物語る、極私的「小説」である。
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