午後の始業前に、
地下書庫の除湿器に蓄積した水を棄てる。
冊子体、特に製本雑誌にとって湿気は、大敵。
紙面に悪意無く少量ずつ浸透し、経年劣化を加速させてしまう。
オンライン化がどんどん進む昨今、
それでも、冊子体が無くならない理由がある。
過去の知の全てを、オンライン化する事は現段階では不可能。
つまりは、紙媒体の書物の需要はまだまだ、この世界にはあるという事。
図書館資料には、使命がある。
電子化できていない過去の貴重な情報源を、必要な誰かに速やか、かつ確実に提供するという、代えがたい特命。
だから、こうして私は今日も忘れずに、
除湿器の水を棄てる。
あるかなきかはさておき、気紛れに求められれば確実に、鮮やかに提供するために。
「・・・手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ。今、終わりました。それよりも、何か文献のご依頼ですか?」
「カウンターに来たら、いつもとは違う香りがしたんです。
香りをたどってきたら、ここが終点でしたので。」
「相変わらず、嗅覚が鋭敏でいらっしゃる。」
「そうかな。
しかし、それだけではありませんよ。」
除湿器は多分、我々のあいだに生じたこの湿度までは、除去してはくれない。
だから、絡み合わせるのは舌ぐらいにしておいたほうが良いだろう。
状況的に考えて、今は。
そう判断し、唇を離して、
呼吸を整えながらささやく。
「・・・続きは、業務外に。」
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『Whispers in the library』
攻殻機動隊、特に「笑い男編」愛好者の私としては、(いや攻殻は全部好きですが!)
もうこの銘柄を見ただけで、未だ見ぬ香りに酔いました。
そして実際に、その香りを纏ってみて。
ああ、巡り会えたな。と。
嗅覚や味覚ってもどかしい。
言葉というブキがまったくもって、
役に立ちません。
ただひとつ言える事は、自分の脳と心が確実に今、快指数95%という事だけ。
残りの5%は、ここでは本来不必要な、せめてもの自制心です。
明日からもお仕事、がんばります。
では、また。