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月神(35)
和歌山・不思議系

容疑者Xの献身

20/3/1 17:11
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TVドラマが物理学謎解き捜査とすると、この映画は犯罪心理学裏掻き捜査と言えよう。ガリレオ本来の物理学視点ではなく、点と線を繋ぐ心理戦での攻防が思う存分に楽しめる。
更に東野圭吾らしい哀しく儚い人間模様にいつの間にか引き込まれていると言う恐ろしい演出には脱帽だ。

スポーツ万能で名声を集める湯川学と登山部出身のしがない高校数学教師の石神哲哉の天才ライバル対決、端的に言えばこうなるが、そんな生易しい構図ではない。
息の詰まる都会の片隅で世捨て人の様に孤独に生きる石神がやっと見つけた自分の存在価値という無上の悦びを、正面から奪いに来る唯一無二の学友湯川。そこには犯罪者と捜査官ではなく、女神を守る聖なる殉教者と現実社会を守る為政者が居た。
堤真一さんの演技は今まで観た中ではかなり異色で、その表情には揺るぎ無い献身への決意と、友への秘かな恐怖が恐ろしいほど静かに表れていた。ラストの「石神の慟哭」は邦画史に残すべき圧巻だろう。

因みに石神になりきる為髪の毛をかなり抜いたそう。

また、松雪泰子さんも切り詰めた生活感を痛々しい迫真の演技力で魅せ、堤さんに負けない抜群の存在感。
この二人の配役こそ本作の全てかも知れない。

吹く雪山での誘惑を棄てて、友との運命に身を委ねた石神。
殉教者らしい自信と覚悟が観る者の胸を締め付ける。

ガリレオシリーズでは当然に最高傑作だが、邦画ミステリー分野でも屈指の名作として記憶に留めたい作品だ。

まさに最愛の人に献身した天才の話。
(c)gran-tv.jp