【草薙電脳艶戯倶楽部】(629)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

果実夜話【第二夜】

16/1/7 21:55
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草薙19歳。大学一回生の夏。
生まれてはじめて、女性に恋情を抱いた。
以前ブログにも書いたがとかく「疑似男性」という意味で女ウケの良かった草薙であったがまさか、自分と同様の女性に出会うとは予想外であった。

忘れもしない。木曜午後4時限目。般教・宗教学の講義。
仲間内で私と彼女だけがこの講義を受講しており、したがって唯一、彼女とふたりきりになれる1週間で最も幸福なひとときであった。
宵っ張りの彼女は午後は居眠り率が高い。
「ねむいー」と言いながら私の肩に頭など乗せられようものなら草薙さん、さあ大変。このまま永遠に講義が続けば良いのにとすら思ったものだ。

ある日草薙の両手が、彼女の胸部に接触するという不測の事態が生じた。
誓って言うが故意では無い。
「ぷに。」という可愛らしい擬音がまんま当てはまる、そんな触感にうろたえる草薙。
すると、彼女は今までに見せた事が無いような表情で
「大きいでしょ。イヤなんだよね。サラシ巻きたいよ。」
と苦笑した。

彼女が好んで男装している事、両性愛傾向にある事を仲間内で知っているのはなぜか、草薙のみであった。
思えば彼女も、同じ両極性を私に、観ていたのであろうか。

何度も想いを告白しそうになり、踏み留まり、そうこうするうちに草薙はひょんな事から再度異性愛が復活。復活一発めにまさかの二股をかけられたりと大変な目にあうのだがその話はさておき。

彼女が結婚し、母になったと数年前、伝え聞いた。

もし今、彼女に会えてもやはり私は、あの頃あなたが好きでした、とは言えない気がする。
そして今でも、思い出す。
肩に感じたあたたかさと、ふたつの果実の、甘くときめく触感を。

では、また。
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