【草薙電脳艶戯倶楽部】(629)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

『 (ハル) 』

15/12/28 12:51
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坊主どものリクでカーズやらレゴニンジャゴーやらのDVDを借りに行き、行ったついでに久々に自分のために映画を観よう、と思いついて借りた懐かしの作品。

森田芳光監督『(ハル)』

1995年。時はまだ、パソコン通信時代。チャットの映画フォーラムでたまたま知り合った「ハル」と「ほし」は意気投合し、個人的にメールを交わすようになる。
それぞれが現実の生活に行き詰まりや、消えない傷を抱えたふたりは次第に、映画の話だけではなく個人的な事情も明かし、時にはすれ違いながらもどんどん、心の距離を縮めていく。

ネット依存。ストーカー。出会い系。
それらの単語がまだ世に無かった時代、今なら確実にマイナスイメージをもってとらえられる場面も、作中では物語の重要なスパイスになっている不思議。
あの有名な『ユー・ガット・メール』より3年も前に日本で制作されたこの映画を観たのはまだ20代、パソ通経験など皆無の自分がなぜ当時、この映画の世界観を違和感無く理解し、ちかしく感じる事が出来たのか。

当時のメールは今とは違い、1回に送信可能な字数に制限があった。
しかも通信可能時間も今よりずっと、限定されていた。
便箋の枚数が増えれば増えるほど郵送料がかかり、通信時間を選らばなければ通話料はひじょうに、高額になる。それが当たり前の時代。
限られた字数と時間で交流する事が可能でありかつ、苦痛で無いか否か。
そしてある程度、自分と他者、現実と仮想現実に冷静かつ明確な線引きができるか否か。
秘密の遊里に存在する、楽しさと刹那さ。
それと、自分のルールで向き合えるかどうか。
自問自答の日々の中、誰かが誰かと、微妙な均衡で繋がっている。

そして、草薙はどうかと言えば。

例えば今の自分が40年前に、40歳だったとしても多分、胸踊らせて封書を開け、書かれた文章を何度も読み返し、下書きをして推敲をして、ああでもないこうでもないと何とか便箋1枚分にまとめ、覚悟を決めて投函し、2度とこないかも知れない返信の内容を、あれやこれや想像して毎日を過ごす。

それに似た事をしていたのでは無いか。
そんなふうな気がするのです。だから、今も昔も変わらず、この映画の設定に惹かれているのでしょう。

ご興味あればぜひこの映画、冬休みのおともにご鑑賞あれかし。

では、また。
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