19歳から30歳。
泣いて笑って恋して酔っ払って、まるでお祭りのように過ぎた約10年。
今でも、大切な思い出。
そんな、京都市内某所でのあの時代。
23歳の時に住んでいたアパートの近所にあった小さなワインバー。
ドキドキしながらひとりで足を踏み入れたそこはいつしか、定期的に足を運び、グラスを傾ける場所となった。
マスターは、店主をするには多少、いやかなり、不器用なひとであった。
でも、その不器用さと人柄に惹かれて通う常連の方は多く、私もそこで幾多の人のご縁に恵まれそして、今に至る。
30歳、京都時代最後の年。
引っ越しの何日か前、最後にそのワインバーにおじゃました。
少し遅い時間だったため、客は、私ひとりだった。
はじめはカウンターの中にいたマスターだったが突然「今日はもう、クローズにするよ。」と言い出して、本当にクローズにしそして、私の隣に座って飲み始めた。
もうそろそろ帰ろうかな、とチェックしようとしたところ突然、抱き締められた。
びっくりした。
そりゃそうだよ。
私よりも少し背が低く、華奢な体格。客観的に見たらちょっと、滑稽な風景だったかも知れない。
「草薙ちゃんがいなくなると、さみしいね。」
マスターは、泣いていた。どうして良いものやらわからず、とりあえず、背中をぽんぽん、と叩きながら、三重~京都間なんか近鉄ですぐですよー、またおじゃましますから。そんなことを言いながらなんとか、明るく締めくくろうとしていた。
キスされそうになったのでまあまあ、落ち着いて、とかなんとかまたも、それとなくかわしたところで、マスター撃沈。
草薙の自慢の怪力で何とか、ソファまで引きずっていき、寝かせて、お代を置いて帰宅。
後日、謝罪メールが来た。が、なんと返事をしたかは覚えていない。
その後、マスターは当時交際していた10歳ほど年下の女性と結婚。
そして私もひょんなことから夫と知り合い、三重県民から一転、埼玉県民になり現在に至る。
マスターも好きで、私も好きだった、椎名林檎の歌を久々に聴いていたら思い出した、そんな一幕。
本当は他のお題で書こうとしたのですが無理でした。
たまにはこんな、草薙さんもお許しあれかし。
ではではまた。