10/09 13:37 ID:feitian57 →Aegis0327
『病室の白と電脳空間の極彩色。生体と、疑似生体デバイス。そんな両極の中で出来ることはただひとつ。心という、唯一の楽園を可能な限り豊かにする事でした。
私の28年間はおそらく他の28歳の多くの女性よりも知識と疑似経験にはあふれてはいると思います。なにせ時間だけはたくさんありましたから。
このサイトを選んだのも、年齢設定を40歳にしたのも、そして既婚者設定にしたのも、もし健常であったなら例えばこういう人生もあったかもという、気軽な試みのひとつでもあったのです。
そんな中で、あなたを見つけました。
自分でも正直どうしてそこまであなたのことが気になったのかはよくわかりません。文章とアバターのみでなぜここまで、惹かれたのか。
外部記憶をどれだけ蓄積しても、いくら疑似体験ツールを駆使しても、このはじめての心のざわめきは明確に解析できないものでした。
そして、あなたの実年齢をうかがっても、そのざわめきは消えないのです。
むしろまた、あらたなざわめきとなり私の脳内を満たしています。
近々、私は何度目かの施術を受けます。ひじょうに試験的ではあるがこの換装が完了すると私はほぼ、健常者と変わらぬ生活を手に入れることができるそうです。
でも、イージスさん。私は、こわい。生まれてはじめて、生きることがこわくなりました。脳を除く全器官が疑似生体デバイスとなり、代わりに疑似ではない、生の現実世界に否応無しに適応していかねばならない。
サイトを辞そうと思ったのはそんな強い恐怖心からあなたについ、メールをしてしまった自分の弱さ、頭でっかちなだけで実は通常の28歳よりもずっと幼い自分への嫌気、そして何より、何も知らないあなたの感情を結果的にはもてあそんでしまったこと。
そんな様々な、理由からでした。
一日だけ退会を保留するとのことでしたね。
28歳の飛天として、あらためて、わがままなお願いをします。
私の全身換装施術が終了するまでどうか、このサイトにいてはくれませんか。
私もそれまで、退会は保留とします。
得手勝手なお願い、本当に申し訳ありません。幾分、生体のままの部分を残す私としての、これが最後の、お願いです。
長々とすみません。では。』
(続く)