【草薙電脳艶戯倶楽部】(629)
草薙(49)
ヒミツ・不明/その他

電脳艶戯小説『相聞歌』6

15/12/3 12:47
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10/09 10:50
ID:Aegis0314→ID:feitian57

「飛天さん。
はやる気持ちを鎮めながら、あなたがこれを読んでくれることを願いながら書いています。
ずっと、黙っていましたしこれからも黙っているつもりでした。
実は、イージスはかつて存在した俺の分身なのです。
今現在、俺は28歳ではなく、48歳。独身ではなく妻とふたりの息子がいます。
そう、もう20年も前の話。
当時、俺はイージスというハンネとアバターを使い、このサイトに似た場所にいました。
人間の五感が安価で疑似体験できるようになり、欲望を満たすのに生身の肉体が不要となりつつある今ではもう懐古的なその「ライブチャット」という形態は当時、新鮮にうつりそしてあわよくば、という期待も多少あり、興味本位で登録しました。

その中で、彼女に出会いました。
ひとまわりも年の違う、人妻。家庭に不満があるわけでも、金銭的に満たされていないわけでもないようなのになぜか、在籍している。
何を思い、何を考えて、何が欲しくて彼女が、自分と同じ世界にいるのか。
今思えば、在籍の理由など人それぞれだというただそれだけなのですが、当時の俺には納得がいかなかった。
だから彼女に「絡んで」みることにしたのです。

わざと軽っぽい口調で、卑猥な言葉を投げかけたり。今思うと、失礼極まりない態度をとりました。
課金してるのは男だし、どうせ、リアルでは会わないし。そんな思いさえありました。
彼女はいつも、非難するでもなく、否定するでもなくただ、ウレタンのように受け止めて、返信をくれました。時にはそれが気に障り、何すかしたこと言ってんの金目当てのくせに、とすら思いました。

それなのに、気付いたら俺は彼女と「絡む」というよりも至極普通に、サイト内メールのやり取りをするようになっていました。
彼女がそのサイトで発信するもの、それは俺が日頃、言葉にしたくてもうまく出来ない。わかってほしいけれども、素直に伝えられない。
そんなもどかしさをサラリと探り当て、差し出してみせるような、そんな言葉にあふれていました。

そうこうするうち俺は彼女をサイト内だけの存在ではなく、リアルに存在する、生身の女性として感じたい。という気持ちを抑えられなくなってしまったのです。


(続く)
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