あんず小噺(59)
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ヒミツ・不明/その他

『悪意という悪魔』

14/11/12 07:26
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それは離婚して、新しい彼と付き合っていた時だった。一回り以上年上の同僚男性に
『俺がお前達の面倒をみる。今付き合っている男と別れろ』
と言われた。その男性は『ちょいワル親父』風の人で、豊富な人生経験の話が面白くて、よくお喋りをしていた。が、彼は既婚者。要は愛人になれという事だった。
確かに世話にもなったし、話もたくさんしたが、私にはそんな気など全くない。当然、お断りした。

大変なのはそれからだった。

他の同僚を掴まえては私の悪口を言いふらし、私の仕事の動向を逐一監視して、些細な事で怒鳴りつける。誰もそんな面倒な事に関わりたくないし、私も巻き込みたくなかった。そこら中で陰口を言われ、誰とも口を利かない日々が続いていた。率先して言っていたのは、私にかまって貰いたがった連中だった。そんな最中、彼とも別れ、別れた旦那とも揉めて、それでも毎日仕事に行っていた。娘にはもう私しかいない。泣いている場合じゃなかった。
自分の状況が辛くないと言えば嘘になるが、彼等が哀れに思えて仕方なかった。
自分が勝手に私からの情を期待して、構えだの癒せだの要求してるだけなのに、なぜ応える必要があるのか?腹を立てるのは自分勝手だ。私に好意を持ってるから何だというのか?願いが叶わない苛立ちをぶつけて許される、何を言っても許される理由になどならない。そんな事も分からずに、考えもせず悪意を心に宿し、簡単に人を貶める悪魔となる。人間とは本当に哀れで愚かな生き物だ。ヤツらの悪意に満ちた目と、悪意にまみれた言葉を私は未だに忘れられずにいる。そんな人間を引き寄せたのは、自分にも原因があった。悪意を宿しても誰も幸せにはならない。憎しみと悲しみが連鎖するだけだ。向けた方は自分勝手だから忘れているが、向けられた方は悪意の残像と残響がいつまでも心に重く沈んでいる。

男は女に甘えたいもの…と世間では言うし、ハッキリ口に出す男性もかなりいる。
だが私は一切認めない。そんな屁理屈を振りかざし、相手の気持ちを無視して自分勝手な要求を正当化する…その腐った性根にヘドが出る。いい大人が甘えたいなど口に出して恥ずかしくないのだろうか?男もそうだが、女もそうだ。子供でも働く親の負担になるまいと黙って辛抱しているのに。

私が至上の情で抱いて甘えさせるのは『甘えない男』と最愛の娘だけだ。

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