あんず小噺(59)
☆☆あんず☆☆☆☆☆(50)
ヒミツ・不明/その他

『地上の星』

14/8/25 12:36
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ご存知の人が大勢いると思うが、中島みゆきの曲だ。この世界で人知れず戦う、名もなき人々を歌った詞だ。

子供の頃、地元の近くで大規模な土砂崩れがあった。消防団に入っていた父親は救助活動に駆り出され、数日間帰って来なかった。今の私より少し若いくらいの歳の頃だ。
朧気な記憶だが、帰ってきた父親は疲労困憊していたのはもちろん、眼に生気がなかった。しばらくロクに口も利かず、黙々と仕事をしていた。今思えば、優しい父親には辛くてたまらなかったんだろう。子供に惨状を言うワケもなく、何も語らずにいたが、だいぶ後に聞かせてくれた。
僻地で民家はそれほど多くはなかったが、住人のほとんどがお年寄り。当時は防災無線しかないような時代。夜中だった事もあり、逃げ遅れ犠牲になった。父親は現状を見た時、圧倒的な絶望に言葉もなかったそうだ。家があったはずの場所には土砂しかない。瓦礫を退けても、土砂を掘っても、出て来るのは亡骸ばかり。穴という穴に土砂が詰まり、その痛ましい亡骸、さぞ苦しかったであろうと思えば涙が止まらなかったと。でも手は止められない。亡骸を掘り出せるのは彼等しかいないからだ。一刻も早く見付けて荼毘に・・誰もがその一心でスコップを振るい捜索していたと。
誰に感謝されるでもなく、名前が世に知れ渡る事はない。ヘタすれば、グチなど零そうモノなら『それが仕事だろ?任務だろ?』と言われる。何もしない無責任な連中から。
大規模な災害が起きると、いつもこの事を思い出す。メディアで流れる現実に胸を痛めてる人は大勢いるだろう。現実にボランティアに参加している方も多数いる。街も人も病み、メディアが報じない『本当の現実』を目の当たりにした人々は、決して現場で被災者に『頑張って!』とは言わないだろう。
千人、万人の無責任な『頑張って!』より、彼等のような名もなき『地上の星』が被災者の本当の希望になる。

今すぐには無理だが、時が経てば必ず。

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